嘘つきな君
その冷めきった瞳を見て、思う。

この人だって。


「あなたですね? 彼をたきつけたのは」

「仰っている意味が、分かりかねますが?」

「とぼけないで下さい。どうせ弱みにでも付け込んだんでしょう」

「フラれた事を私に当たるとは見苦しいですよ」

「本当の事を教えてください」

「強情ですね。――まぁ、私は単に現実を教えて差し上げたまでです。決めたのは、常務本人。言ったでしょう? いずれ目を覚ますと。彼は自分の役目をしっかり理解された御方だ。少し夢の中に迷い込んでいただけで」


どこか薄ら笑いを口元に浮かべて、私を見つめる切れ長の瞳。

まるで何もかも自分の思惑どりに動いたと言わんばかりに、黒い笑みを浮かべた。

その表情に、悔しくてギリっと奥歯を噛み締める。

そんな私を見ても、柳瀬さんは表情一つ変えずに私を見下ろして口を開いた。


「しかし、もともとこうなる運命。時期が早まっただけのこと」

「――」

「始めから、彼は神谷社長のチェスの駒にすぎない」

「あなたねぇっ!!」


その言葉を聞いて、カッとなって思わず掴みかかりそうになる。

それでも、ぐっと拳を握って歯を食いしばる。

感情的になるな、と自分に言い聞かせる。


「彼はチェスの駒なんかじゃないわ。意志を持って、自分の信じる道を歩んでいる」

「でも、あなたは理解できないでいる。その腫れた目が何よりの証拠では?」

「ちがっ」

「あなたもチェスの駒にすぎないのですよ。芹沢菜緒さん。気づいていないだけで」


淡々と零れる言葉に、唇を噛みしめる。

どうしてこの人は、こんなにも人を追い込むんだろう。

どうして、そんなに感情がないんだろう。


「今、ようやく駒が揃いました。あとは、されるがまま生きるだけ」


どうして、何もかも諦めた様に言うんだろう。

どうして、全部どこか遠くから見ている様に、言うんだろう。
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