嘘つきな君




先輩と会ってから、どれだけ経っただろう。

時間の流れが曖昧だ。

ただ過ぎていく時間。

何も考えずに、ただ淡々と駆け足で過ぎ去っていく毎日。


そんな、ある日の午後の事だった。

空っぽの毎日が、動いたのは――。







「芹沢いる?」


ランチを終えて、ようやく午後の仕事を始めた時。

秘書室の扉が開くと同時に、上司が顔を覗かせて私の名前を呼んだ。


「はい」


パソコンの上から顔を出して返事をする。

すると、いつもはニコニコ笑っている上司が真剣な顔でこちらに向かってきた。

その姿に不安を覚えて、顔が強張る。


「ど、どうかしましたか? もしかして、何かミスでも?」


私の席まで歩み寄ってきた上司に、恐る恐る尋ねる。

もしかして、重大なミスでもしちゃった!?

さっき提出した書類に不備があったとか!?


「ううん。そんなんじゃないの」

「え?」


それでも、ドクドクと心臓を鳴らしながら答えを待つ私に、上司は困った顔で首を傾げた。

その姿と連動する様に、私も首を傾げる。


え? 違うの?

だったらなんだろう?


グルグルと頭を回転させるが、思い当たる節がない。

それよりも、早くこの緊張から解放されたくて、答えを急かそうと口を開いた。

その時――。


「社長が呼んでるわ」


告げられた言葉に、思考が停止する。

瞬きも忘れて、先輩の顔をじっと見つめる。

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