嘘つきな君
「しゃ……ちょう?」
オウムの様に繰り返した私の言葉に、上司はコクンと小さく頷いた。
私と同じように、訳が分からないといった様子で。
「え? なんでですか? なんで、社長が私なんかを?」
「分からないの。とにかく、芹沢を呼んで来いって……」
「わ、わ、私、何かしましたかっ!?」
「落ち着いて芹沢。私が思う中で、特に大きな失敗をしたとかはないから」
慌てふためく私を宥めるように、上司がそっと私の肩に手を置いた。
それでも、その言葉が更に不安な気持ちを増幅させる。
だったら尚更、なんで私なんかを!?
こんな事、前代未聞だ。
秘書の中でも限られた人しか会う事のできない神谷社長。
ましてや、こんな下っ端の秘書が呼び出される様な事はまずない。
「い、今……社長はどこに?」
「社長室よ」
必死に思い当たる節を探るが、一向に答えは出ない。
それでも、お待たせするわけにはいかず、重たい腰を上げた。
周りの先輩達が心配そうな顔で私を見ている。
そんな視線の中をノロノロと歩きながら、社長室まで向かった。
ドクドクと心臓が早鐘の様になる。
もちろん、社長とお会いするなんて初めてだ。
日本を背負う、神谷ホールディングス社長。
経済界でも、トップに君臨する、その人。
彼の、義父さん――。
重たい足を引きづりながら、エレベーターに乗り込み最上階のボタンを押す。
その瞬間、みるみるうちに高くなる景色。
ガラス張りのエレベーターからは、美しい東京の景色が一望できた。
そして、あっという間に最上階に着いたエレベーター。
チンという軽やかな音と共に、ドアが開く。
すると、目の前に現れたのは、まるでホテルのラウンジの様な場所。
床も磨き上げられた大理石で、モダンな雰囲気の中に気品が滲み出ていた。
照明一つとっても、重厚感に溢れている。
その景色に圧倒されて、思わず足がすくんだ。
さすが、超一流企業の社長室。
格が違う!!