嘘つきな君
父さん――?


突然落とされた言葉に、眉間を寄せる。

譲れないもの?

何を言っているの?


訳が分からないと、訝し気な顔で彼を見つめる。

真剣な眼差しを少しも崩さない彼を。

すると。


「お前をアメリカへは行かせない」


聞こえた言葉に、目を見開く。

それと同時に、怒りが一気に湧き上がる。


「意味の分からない事言わないでっ」

「――」

「何勝手な事言ってるの!? 今更何っ!? 私はアメリカに行くのっ!! 第一、私達はもう終わってるじゃないっ。終わりにしたのは、あなたでしょ!? どこへ行こうが私の勝手でしょ!」


怒りで目の前が真っ赤になる。

今更、何勝手な事言っているの?

どんな気持ちで、ここまできたと思ってるの?

どんな気持ちで、今まで笑ってきたと思っているの?

どんな気持ちで、あなたの手を離したと思っているの?

今更、あなたの気まぐれで滅茶苦茶にしないで。


「なんで私に構うの! 放っておいて! 第一、あなたには関係ない事じゃない! あなたには婚約者がいるでしょ! こんな所に、いちゃいけないのよ!」


なりふり構わずに言葉を落とす。

目の前にいた彼の胸に、ドンっと拳をぶつける。


もう私を振り回さないで。

せっかく決めた決意を崩さないで。


泣きたくもないのに、無意識に頬に涙が一筋流れた。

そんな私を、表情一つ変えずに見つめる常務。

そして。


「俺はもう、神谷の操り人形にはならない」


真っ直ぐな声で、そう言った。

その言葉に、顔を上げる。


「決められたレールの上を歩いて、決められた人生を歩むのは止めた」

「何を言って……」

「俺は、俺の大切なものを守る為に生きる」


その言葉と同時に、すっと伸ばされた大きな手。

そして、そのまま私の頬を流れる涙をそっと拭った。

頬に伝わるその熱に、ピクリと体が反応する。


「もう、誰にも文句は言わせない」


私に頬に指を這わせたまま、彼は強い眼差しでそう言った。

その言葉の意味が理解出来なくて、ただ茫然と彼を見つめる。

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