嘘つきな君
子供のように泣きじゃくる私の髪を優しく撫でる大きな手。

その手の温もりを私の注ぎながら、彼は私の肩に顔を埋めた。


「あの日の言葉は、全部『嘘』だ」


そして、どこか苦しそうにそう呟いた彼。

熱い吐息が肩先で揺れる。


「社長に、菜緒との事がバレた」

「――」

「手を引けと言われた。菜緒のキャリアを潰されたくなければって」


その言葉に背筋が凍る。

途端に甦るのは、神谷社長の口元に敷いた笑み。

その瞬間、怒りが湧き起こる。


「酷いっ」

「あの人は会社を守る為なら何だってする。それに、あの時は既に園部との縁談が決まっていた。波風立たせたくなかったんだろう」

「それでもっ」

「小さな綻びが、大きな落とし穴になる。あの人は、数えきれない程の社員の未来を背負っているんだ。もちろん、納得しなかった。それでも、社長は本気だった。だから、汚いやり方だと思ったけど、それでも……お前を守りたかった」


守りたかった。

その言葉に、胸が締め付けられる。

だけど、私はそんな優しさなんていらなかった。

それなら、側にいたかった。

どんなに傷ついても。

未来が潰されようとも。

側にいれるだけで、よかったのに――。


「だけど、間違ってた」


悔しくて唇を噛んだ私に、再び言葉が降ってくる。

その声に反応して、彼の胸の中で瞬きを繰り返す。


「そんな事しても誰も幸せにならない。ただ、お前を傷つけただけだった。結局アメリカに飛ばされる事を知って、俺は踊らされているだけと分かった」

「――」

「いつまでたっても、俺はガキのままだった」


苦しげな声が響く。

思わず、彼のスーツの袖を握った。
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