嘘つきな君

その笑顔と共に、世界に色が戻ってくる。

固まっていた心が、温かくなる。

失ってしまった笑顔が戻ってくる。

止まってしまった時計が、動き出す。


「ねぇ」

「ん?」


笑顔の下で問いかけた私に、彼が首を傾げる。

どこかルーズにセットされた黒髪が、揺れる。

大きな黒目がちな瞳が細められる。

その全てが愛おしくて、堪らない。


「離れたくない」


ようやく伝える事ができた言葉。

行き場のなくなったはずの言葉。


目を見開いて驚いた彼を見ながら、クスクス笑う。

少し頬が赤いのは気のせいだろうか。


「私も、あなたと一緒」

「一緒?」

「世界で一番、諦めが悪いの」


私も、心のどこかで諦めてなかった。

見えない様にしていただけで。

強がっていただけ。

まだ、こんなにも好きだった。


そんな私の言葉を聞いて、ふっと嬉しそうに笑った彼。

そして、もう一度力強く私を抱きしめた。


ねぇ。

私達は沢山遠回りしたけど。

ようやく、お互いが帰ってきたい場所に帰ってこれたね。


いろんな壁にぶつかって。

生きにくい現実に踊らされて。

一度はその手を離してしまった。

それでも、一緒にいたかった。

一緒に生きていたかった。


それが、何もかも違う私達の。

唯一の共通点。
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