嘘つきな君

「待て待て。とりあえず落ち着いてくれ。今から話すから」


まるで幼稚園の先生状態になった部長が、両手を胸の前で広げて群がる部下達を後ろに下げる。

その姿に、社員達は渋々口を噤んだ。

どこか愛嬌のある部長は、昔から上司というよりは親戚のおじさんって感じだった。

猛烈に失礼だけど。


部長の言葉を聞いて、まだまだ不満そうな顔をしていた社員達だけど、一呼吸置いて一歩後ろに下がった。

その様子を一度見渡した部長が、大きく息を吸った。


「みんなも知っての通り、我が社は事実上、無期限の営業停止命令を受けた」

「――」

「職を失った」


伏し目がちにそう言った部長の言葉を聞いて、思わずぐっと拳を握る。

それと同時に、部長も『被害者』なのだと分かった。


だけど、納得できない。

必死に働いてきた私達への仕打ちがこれ?

朝早くから夜遅くまで働いてきたのに、奪ったのは一度しか会ったことのない社長。

噂では重役連中もグルだったって話。

そんなの、納得できない。


みんなも同じ事を思っているのか、唇を噛みしめて、じっと部長の姿を見ていた。

そんな私達の顔を見つめ返す部長。

そして。


「だが、捨てる神もいれば、拾う神もいる」


張りつめた空気を打破する様に、目を細めて笑顔を作った。

< 39 / 379 >

この作品をシェア

pagetop