嘘つきな君
「拾う……神ですか?」

「そうだ」


思わず誰かが零した言葉に、ニッコリと微笑んで頷いた部長。

そんな部長とは正反対に、私を含め周りのみんなは訳が分からないといった様子で、ポカンと口を開けて固まった。


拾う神?

どういう事?


意味が分からず首を傾げる私達を、まるで焦らす様にぐるりと見渡した部長。

それから一呼吸置いて、胸元から一枚の紙を取り出して私達に見せつけてきた。

そして、声高らかに何かを宣言するように口を開いた。


「本日付けを持って、この会社は神谷ホールディングスに買収された」


まるで子供の様に顔を輝かせて、そう言い放った部長。

社員一同といえば、眉間に皺を寄せて部長を見つめている。


「買収っ!?」

「どういう事ですかっ!?」

「私達はどうなるんですか!?」


案の定、再び堰を切ったように社員達が暴走しだす。

肝心な事を言わない部長に、痺れをきかせる社員達。

イライラが溜まっているのだろう。

今にも掴みかかりそうな勢いで、部長に詰め寄った。

大きな輪の真ん中には、部長が水面から顔を出す様に息苦しそうに天を仰いでいた。
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