朝、目が覚めたらそばにいて
「ちなみにどんな本を探していたか聞いていい?」

「如月千秋先生の『私の目が覚めたらそばにいて』です」

「へぇ」

佐々木さんは本のタイトルを聞いて、どこか面白そうに笑う。
正太郎さんがガタッと音を立て、鋭い目つきで私を見た。

「えっ?」

どうして正太郎さんに睨まれているのか。
私はただ探していた本のタイトルを言っただけで、正太郎さんとの出来事は話していないのに。
正太郎さんが私から目を逸らしたのと同時にまた佐々木さんは質問をした。

「で、さっきはどうして警備員に捕まってたの」

「えっと…新人作家のサイン会に当選して来たんですけど、その作家の本を持って来たと思っていたのが千秋先生の本を間違えて持って来てしまって。焦ってバッグに中をごそごそと探していたら挙動がおかしく見えたみたいでスタッフが自分に近づいて来ていると思ったら余計に焦って…逃げました」

ここまで事の顛末を話すと佐々木さんは大笑いしていた。
正太郎さんもプッと吹き出す。

あ…笑った。

出逢った書店で彼のその笑顔だった。

「逃げたのがまずいわね。スタッフに訳を話せばよかったのに」

「今なら私もそう思います。私、昔から焦ったりすると挙動不審になると友達から言われてて」

「ところで…」

話が脇道に逸れそうになると佐々木さんはまた本線に戻す。

「如月千秋の作品は好きなの?」

「はい!」

「どう言うところが?」
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