朝、目が覚めたらそばにいて

何も言わない正太郎さんから視線を私に移し、もう一度、正太郎さんに戻す。

彼は相変わらず黙ったまま。
ああ、そうか。

正太郎さんにとって書店での出来事はなんでもないことで、もう忘れているのかもしれない。
短く返事をしてから何も言おうとしない正太郎さんにしびれを切らしたのか佐々木さんが、今度は私に質問して来た。

「山下さんは正太郎くんを知ってるってことなの?」

話していいものかと正太郎さんをチラッと見るけれど、相変わらずそっぽを向いて会話に参加する気がなさそうな態度に少しむかついた。
千秋先生の本を譲ってくれた出来事は、私にとってはとても嬉しくて大事なことだったのに、彼にとってはなんでもないことだったらしい。
筋違いとわかっていても彼への苛立ちが込み上げてくる。

「本屋さんで会っただけです」

そこでの出来事は言う気になれなかった。
私がその出来事にこだわっていつまでも引きずっていると思われたくない。


「本屋さんで?どこの?」

「□□町の」

「えっ?」

少し考えて佐々木さんは「なんて言う書店?」と言う。
町の昔ながらの本屋だ。
言ってもわからないだろうと思いながらも書店名を言おうとすると

「そんなこと聞いてどうする」

正太郎さんが会話に割り込む。
けれどどこか意地になっている私は

「長良書店です。大型店ではないけれどどうしても欲しい本を探していて、しらみつぶしに書店を回っていてたどり着いた店です」

正太郎さんの顔を盗み見するが、ここまで話しても顔色を変えない。
会話に割り込んだ意味がよくわからない。


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