初恋の人
紳太郎さんは、静かに私の方を見つめていました。

「紳太郎さん?」

「義姉さんは、僕が結婚してしまえばいいと、思っているのですか?」

何て答えたらいいか、分かりませんでした。


本当は結婚してほしくない。

私が独身だったら、縋り付いてでも言えた言葉。

でももうそんな事は、一生言えない。

私は、倫太郎さんの妻なのだから。


「分かりました。義姉さんがそう言うのなら、僕は従います。」

「えっ……」

私の気持ちを薄々感じているのか、それとも全く感じていないのか。

分からないまま、紳太郎さんは詩野さんと、婚約してしまいました。


その頃からです。

紳太郎さんが時々、夜帰ってこない日ができたのは。

そんな中私は、使用人達の間で、『紳太郎さんには、通っている女性がいる。』と言う噂を耳にしました。

いつか話していた、結婚を約束している人の元なのだろうか。

それとも、全く別の女性なのか。

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