初恋の人
紳太郎さんが家の中に入ると、紳太郎さんと目が会いました。

「おかえりなさい。」

「只今戻りました。義姉さん。」

あの日と変らない紳太郎さん。

でも、私の気持ちは変わってしまいました。


あの日の事を、一度の過ちにする。

そう決めて、紳太郎さんのいない日々を、過ごしてきたんです。

今更、

今更……


その時、ふと紳太郎さんが、私の肩に手を置いてきたんです。

まるで、あなたの事は忘れていませんと、言わんばかりに……

紳太郎さんと詩野さんが、自分の部屋に戻っていった後、私は一人、紳太郎さんが置いて行った肩のぬくもりを、感じていました。


本当は、嬉しかったです。

紳太郎さんが、あの日の事を、覚えていた事も。

私との関係を、望んでいる事も。


この時に、夫がいなくてよかった。

いれば、義理の弟に触れられて、嬉しい顔をしている妻の顔を、見てしまうところだったでしょう。

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