初恋の人
月日は流れて、私は男の子を産みました。

目を覚ますと、そこには子供を抱く夫の姿がありました。

ぎこちない抱き方でしたが、夫の顔は安らいでいました。


「……男の子だったな。」

「ええ。」

「この家の長男だ。」

夫はとても満足そうでした。

私が起き上がって子供を抱くと、夫は「綾女。名前を決めたぞ。」と言って、胸元から白い紙を出しました。

「優之介だ。優しい子供に育つぞ。」

夫の穏やかな顔。

手足を必死にバタバタさせる我が子。

本当にこの子を産んで、よかったと思いました。


程なくして、詩野さんにも子供ができ、産まれた女の子は”咲野゛と名付けられました。

その後、二人は向かいの敷地に新居を建て、そちらに移ってしまったので、なかなか会うこともありませんでした。

詩野さんは時間を見つけては、咲野を連れて遊びに来てくれましたので、私は男の子と女の子、両方の成長を、見ることができました。
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