ロマンスがありあまる
話ぐらい聞いているに決まってるわよね。

自分の秘書として働く人が誰なのかどうかぐらい、社長である父親から聞いているに決まってるわよね。

私が心の中でそんなことを呟いていたら、
「へえ、なかなかの美人じゃん」

専務が言った。

「は、はい…?」

そんなことを言われた私はどう返事をすればいいのかわからなかった。

えっと、私は何を言われたんだ?

専務はフッと口元をゆるめて笑うと、固まっている私の左手を手に取った。

えっ、今度は何?

専務は手の甲に、自分の唇を落とした。

まるで、王子様がお姫様にキスをするみたいに。

それを見ながら思っていた私に、彼はこう言った。

「――君さ、僕の婚約者になってくれない?」
< 10 / 107 >

この作品をシェア

pagetop