ロマンスがありあまる
「――1人前になりたいから、かな」

唇を動かして音を発した専務に、私は彼が何を言ったのかよくわからなかった。

「えっ?」

私が思わず聞き返したら、
「僕の話を聞いてくれる?」

そう言った専務に、私は戸惑いながらも「はい」と返事をした。

「僕の姉さん――前の専務なんだけど――は、父のお気に入りだったんだ。

頭がよくて美人で、何より素直な性格だったから、子供の頃から父にかわいがられて育った。

遅くにできた子供で、そのうえ娘だったかって言うのもあるかも知れない。

姉さんはそんな父に反抗することなくもなかったし、父も将来は婿をとって姉さんを会社の跡取りにしようと言ってたくらいだった。

いい言い方をするならば“従順な娘”、悪い言い方をするならば“父の操り人形”って言うところかな」

専務はそこまで話すと、息を吐いた。
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