ロマンスがありあまる
「昨日は君が総務課から秘書課に異動したのと同時に、僕が常務から専務になった日でもあったんだ。

だから、最初に専務室のドアを開けた人と婚約をしようとそう思ってた」

「…そのドアを開けた人が私だった、と言うことなんですね」

私がそう言ったら、
「そう言うこと」

専務は首を縦に振ってうなずいた。

「これで、僕と婚約する気になった?」

そう聞いてきた専務に、
「なりません」

私は答えた。

話を聞いたから「はい、そうですか」ってなる訳ないでしょうが。

「まあ、いいよ。

後は時間をかけて、君が首を縦に振ってうなずくのを待つだけだから」

いや、こないですから。

私が心の中でツッコミを入れたことに、専務は気づいていないだろう。

「それで、家はどこ?」

「…F町の2丁目です」

私が答えたのと同時に、車はそちらの方へと走り出した。
< 26 / 107 >

この作品をシェア

pagetop