いちばん、すきなひと。
変な電話友達。
その後、なんの変哲もない平凡な日々を過ごす。
とはいえども
二年になると待ち構えていたかのように、進路についての話ばかり振ってくる。
嫌でも考えざるを得ない。

かといって、ハッキリした道があるワケでもなく。
これといって自信があるモノもなく。
霧の中を手探りで歩くような。

春の暖かさも手伝ってか、まだ将来についてなど
考える気にもなれなかった。


桂子とその彼氏に会ってから、しばらく経って
ふいに、電話がかかってきた。
知らない番号。

誰だろう?

怪しいから取らないでおこうかと悩んだが
変な電話なら速攻で切ればいいかと思い、通話ボタンを押してみた。

「……もしもし?」
「あっ、みやちゃん?アツシでーす。覚えてる?」

誰だっけ?
アツシ……その声……軽いノリ。
「あ、桂子の彼氏さんだ」
「ピンポーン、正解っ」
「え、なんで私の番号?電話?」

意味が分からない。
何の接点もないのに何故、彼から電話がかかってくるのか。

「いやね、桂子の事で色々相談したいワケよ。それがさー高校のクラスの友達に聞いてもあんまり手応えなくて。いつも桂子の話にみやちゃんが出てくるしさー、中学の頃ってどんなだったかなって思って。桂子にみやちゃんと仲良くなりたいって言って無理矢理番号聞いた。」
なるほど。
桂子の事が知りたいのね。

それにしても何て人だ。そして桂子もそんなんで番号教えるなよ。
少し怒りを覚えたが、仕方ない。
このペースに巻き込まれてやむを得ず教えたんだろう。
悪い人じゃなさそうだし、様子を見るか。

そしてーーまたそういう話題で上手い事利用されるんだな私、と溜息をついて。
でも彼ならいいかと思ったり。
それだけ桂子の事が好きなんだなぁとホッコリする。
友人の事だけに嬉しくもあるのだ。

「桂子はあんまり変わってないよ、今と。ずっとあんなカンジ。」
大してコレといった話もないので申し訳ない。
「へーそうなんだ。やっぱりなーそうかとは思ったんだけどねー」
「すいませんねぇ力不足で。」
「いやいや、いいよ、全然。桂子の話をできる相手って少ないからさ」

私は彼の言葉に首をかしげる。
「え?なんで?」
「えーだって男友達だとノロケだとか言われて相手にされねーし。」
「うん、それは分かる。」
「でしょ、それで同じ学校の女子だとそれはそれでまた色々と気ィ使うじゃんよ」
「うーん、そもそも桂子の話を誰かとする時点で周りは敵だらけって事だね」
「そゆこと。みやちゃん話早くていいねー助かるわ」

いや、感謝されても困ります。
何なんだこの人は。
「で、桂子の話って何が聞きたいの?私そんなに知らないけど」
サッサと用件済ませて切りたい。
結局ノロケられている気がするのだ。

「うーん、たとえば好きなタイプとか」
「あぁ、なるほど」
「俺、タイプじゃないって言われてるんだけど。桂子のタイプってどんな人?」
「えっとねー確かにキミはタイプじゃないってのは分かる。」
「えーそんなの言われたらマジ凹むし。加減してよみやちゃん。」
「みやちゃん言うな。そうやって呼ぶの桂子だけだから」
「じゃなんて呼ばれてるの?」
「みやのっち」
「へー、じゃぁみやのっちー教えてー」

あ、マズイ。
耳に入るその言葉で地雷を踏んだ気がした。
似すぎている。

「あ、やっぱダメ。みやのっち却下。みやちゃんでいい」
「んだよ意味分かんねー」
「ごめんごめん。桂子との間でそれが通るからそっちのがいいわ。違和感ない」
「よく分かんねーけどみやのっちはダメで、みやちゃんでいいんだな」
「うーん、どっちも嫌だけど仕方ない。それでいい」
「んだよそれ。変なの。じゃ俺だけのアダ名を付けたらいいか」
「いらん」
「即答かよ!冷たいねーみやちゃん」
「アンタに優しくする義理はないからね」
「あーのーねー俺は桂子のカレシ。優しくしてくれたっていいじゃなーい」
「腹立つからイヤだ」
「面白いね、みやちゃん」

何が面白いんだか。
どうもこの人のペースは、アイツを彷彿とさせる。
この会話のテンポもそうだ。

楽しくなってしまう。
それがまた腹立たしい。
桂子の彼氏だから、というクッションがどれほど役に立っているか。

「で、桂子のタイプの話だよ。教えて」
「桂子桂子ってうるさいねぇもう。本人に聞きゃあ早いでしょうに」
「そんなバカな奴いるかよ。ってか妬いてる?もしかして」
「アホか!んな事ありませんっ」
どっちに妬くというのだ。くだらない。

とりあえず彼女の好みとして、過去に付き合ったと聞いていた人の容姿や性格を
分析して伝えておいた。
彼はフムフムと頷いて、自分とは違うと認めて凹んでいた。
私は何も、悪くないハズ。
しばらくして、彼は話題を変えてきた。
これ以上傷をえぐらない為だろうか。


「みやちゃんはさー好きな人とか彼氏とかいないの?」
「残念ながら」
「そうなんだー俺でよければ相談乗るよ?って言おうと思ったんだけど」
「必要ないわーごめんねー」
「えーそうじゃないと俺ばっかり相談になるじゃん。ギブアンドテイクで行こうぜー」
「なんでアンタとそれをしなきゃならんのだよ……」
「だーかーらっ、これからも相談。乗って」

なんでそんなに可愛く言うのだこの人は。
電話越しなのに子犬のような空気を感じる。

分かった。
桂子もこれに負けたんだな。
そりゃ仕方ない。

桂子、あんたホント想われてるよ。
いいじゃん、羨ましい。

「まぁホドホドにね、私なんかに相談する前に桂子としっかりラブラブ電話しなよ」
「あーそうだね、みやちゃんと喋るの面白いからつい長くなっちゃったよ。あはは」
「余計な事してると桂子に怒られるよー!私は巻き添えはゴメンだからね!」
「あー大丈夫、分かってるって。ーーあ、俺が桂子の事聞き出してるの、ナイショな」
「なんで。いいじゃん」
「俺が恥ずかしいの」
「えー言っちゃおーっと」
「いやだからマジでやめてください」

面白い。
そこで二人で笑って。
「また、電話する」

電話を切った。


何だったんだ、今の。
それにしても。
ことごとく似た人種ってのはいるようだ。

彼が、桂子の彼氏でよかった、などと
くだらない感想を抱いてしまった。


私に春はいつ、来るんだろうか。
苦しくない、恋がしたい。



その後、何だかんだとしょっちゅう電話がかかってくるようになった。
いつも内容は、もちろん桂子とのノロケ話が9割。
本気の相談はまれに1割。

結構、ディープな話題まで出されると抵抗感もあるけど
電話越しなのと、これまでのフランクな雰囲気に騙されて聞いてしまう。
正直に、できる範囲で冷静なアドバイスを送る。
くだらない雑談を交えて。

話を聞くに、桂子とは順調なようだ。
それだけでもヨシとしよう。


そして私も、彼との会話が楽しくなっている事に気付いた。
桂子の彼氏だから、大丈夫。
そんな油断もあったかもしれない。

タイミングが良すぎたのだ。
野々村を諦めようとしている所。
部長との傷が少し癒えてきた所。

私のポッカリ空いた穴に、彼との電話はとても心地よく
寂しさを埋めるものになった。

だからといって、この人は好きにならない。
桂子の彼氏だから、というのもモチロンあるが
似すぎている。
彼に。
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