いちばん、すきなひと。
相変わらずな人だけど、懐かしいから仕方がない。
私はスマホを握りしめたまま
「はあ?」
と思わず大きな声で呟いてしまった。

隣に座っていたサオリが驚く
「何なに!?新手の勧誘?」
違う違う、と私は手を振って答える。
「……高校の同級生からの電話〜」
「なあんだ。番号変えたとかそういう話」
サオリはそれだけで理解したようで。
興味無さそうにポテトをつまんだ。

そうか、番号変えたのか。
だからこの間も確認してたってことね。
それにしても。

「なんちゅー留守電……」
はあ、とため息をついた私を見て
「マイがため息って…どんなメッセージだったの?」
「んー番号変えたから折り返せって」
「なにそれ。別にこっちに掛けて来てる時点で番号知ってるし問題ないじゃん」

言われてみればそうだ。
何故折り返さないとならないのか。
番号を知ってるならショートメッセージでも使えるじゃないか。

悶々としたままドリンクのストローを噛んでしまう私の様子を見て
サオリは何かを察したらしく
「ははん、さては……オトコだな?」
「ぶっ」
私は飲んでいたジュースを吹き出しそうになってむせた。

「ちょっと!動揺しすぎだってソレ!!」
サオリは大笑いしている。
どうやら私は考えている事が分かりやすいらしい。
「……オトコって言い方…サオリが言うといかがわしい」
「なにそれ失礼しちゃう〜……で、元カレとか??」

サオリは勘が良いのか悪いのか。
私はため息をついて
「そんなんじゃないって。ただの友達〜」
「あ、マイの一方的な片想い系か!」
またもや私はむせてしまった。
もう、ジュースが先に空になってしまいそうだ。

少し落ち着きたいがために、私は席を立ち上がった。
「ちょっと追加でコーヒー買ってくる」
「じゃ私も一緒によろしく〜」
ちゃっかりサオリは便乗して、残りのポテトを楽しそうに口に入れる。

午前中だというのにお店はそれなりに人が並んでいて。
少し電話するには丁度良い時間だった。

(とりあえず掛けて、任務は果たしたって事にすればいいか)

ヤツの事だからまたすぐにかかってきそうで。
サオリの前で電話するのも何だか探られそうで恥ずかしいし、
かけるなら今だと思ったのだ。

着信履歴から彼の番号をタップして、しばらく待ってみる。
「ーーーーー遅い!」
「へ?」
第一声がそれか、と突っ込む間もなく
「なにお前、外?」
「そうだよ、今日から学校だし」
「ふーん」

このペースに巻き込まれるとロクなことがない。
過去の経験からそう察して
「……で、なに?折り返せって留守電入ってたから掛けたけど」
サッと本題に入らなければ。

「いや、別に。」
「はい?」
折り返せと言っておきながら
要件は無いだと?

「……そう、じゃもう切るよ?」
そろそろ注文の順番だ。
「あ、ちょい待ち」
「何」
「お前さ、いつヒマ?」
「はい?」
「だーかーらっ、みやのっちが空いてる日って無いの?って聞いてるんだけど!」

突然コイツは何を言い出すんだろうか。
「うーん、まあ土日なら比較的空いてるかも?」
土日が空いてると宣言してしまうのは、明らかに独り身だという感じがして
少しひねくれた言葉を挟んでしまう。

「よし、じゃ今週の土曜日。空けとけ」
「え」
「どうせヒマだろ?」
「どういう意味でしょうか」
「出た!みやのっちの敬語〜」
「フザケるなら切るよ」
「ちょい待ち、とにかく土曜日。昼1時に駅前な!」

そう言って勝手に電話は切れてしまった。
「……ったく、一体何!?」
スマホに向かってボヤいたところで反応があるわけもなく。
私はタイミングよく順番が来たレジにて、サオリの分までコーヒーを買った。
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