いちばん、すきなひと。
翌日は現実に戻る日、のはずなんだけど。
気分は高校生に戻り、体力のある限り遊んだ気がする。
おかげで、今日は寝坊してしまった。

目が覚めて、時計を見る。
「ーーーわっ」
私は慌てて飛び起き、身支度を始めた。
今日から学校の授業が通常通り始まるのだ。

初日から遅れるなんてーーーと、急いで家を出たものの、
専門学校では始業式なんてあるわけもなく。
「ま、なんとかなるか」
なんて少し緩い気持ちで電車に乗った。

遅刻しても課題さえ出せば面目は保てるだろう。
もちろん、出席や授業態度が良いに越したことはないだろうが。
その辺は少し、自分でも緩くなったと思う。
高校の頃なんてそんなこと、思いもしなかった。

友達と授業をサボってジェラートを食べに行ったり
代返を頼んでひたすら友達とカフェでお茶したり
それなりに『上手に息抜きをする』方法を覚えた。

もちろん、社会に出ればそんなことも難しいのかもしれないが
色々、ゆるい方が楽だと気付いた。

思えば私はいつも、何かを背負って
そこから目を逸らすために、色々詰め込んでいた。
現実から目を背けるかのように。

彼に言われた言葉が、今でも残っている。
それを自覚したからといって、解決するわけじゃーーーない。
ずっと、そんな自分を持て余していた。

けれども、専門学校での仲間に出会ううちに
色々なタイプの人と出会い、それぞれの魅力に基づいた価値観なるものに気付いた。

誰のために、それほど必死になるのか。

結局は自分のためなのだ。
その頑張りは、後に必ず自分のためになると信じてーーー取り組んできたはずなのだが。
それで体を壊したり、精神的に追い詰められては元も子もないではないか。

そう、気付いたのだ。

友人たちの、程よい緩さは
大事な時にきちんと集中して全力を注ぐためにある。
全てに全力を注いでいると、肝心な時にガス欠になりかねないと。

そういう意味で、
今日の授業も、特に急いで行く必要はないかという結論にたどり着いたのだった。

「マイみーっけた」
後ろからギュッと抱きつかれる。
ふわりと鼻をくすぐる香りで友人だと判断する。
「わっ、おはよー」
「良かった!遅刻仲間だー」
「あはは、サオリも寝坊組?」
「イエス!成人式の次の日も休みがいいよねー」
「同感」

二人で1限目はサボろう、と近くのファストフード店に入る。
「他に誰か仲間いないかなー」
そう言いながらメッセージアプリを開こうとして
「?」
見覚えの無い番号からの着信に気がついた。

「あれ、誰か電話変えたのかな」
「えーアヤシイやつじゃない?怖いよー」
「そうだね、掛け直すのはやめとこ」
そう言って通知を削除すると、留守番電話が1件。

「え、誰?留守電とか」
「何かあったのかな」
留守電ならメッセージの再生だけだ
聞くだけなら問題ない。
と、耳を当てて聞いてみると

「『もしもーし、俺オレッ。番号変わってねーって言うからかけたぞー。この留守電に気付いたら至急、野々村まで折り返すように。以上!』」
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