いちばん、すきなひと。
映画友達っていいかもしれないね。
二人で映画館に入る。
ここは、そういえば前に田村先輩とも来た所だ。
淡い記憶が一瞬、心をかすめる。

「で、どの映画が見たかったの?」
何も知らずに連れてこられた私はやっと、彼に聞いた。
「これ。」
野々村はポケットから鑑賞券を2枚出して渡してくれた。
「俺さ、この間から映画にハマってて…よく一人で観に来るんだけどさ。ここの映画館って会員になったらポイント貯めてチケット交換できるんだぜ?」
「へえ、知らなかった!」

野々村が映画にハマるなんて意外だ、と思ったけれど
卒業後からの彼を知らない空白の時間があった、という現実を見た気がした。
(変わるよね)
私も、彼も
大人になったんだ。
そんな、気がした。

手渡されたチケットの映画は、全く知らないモノだった。
タイトルからして、洋画の恋愛ものだろうか。

「これ、今日までだから見たかったんだよなー」
ほら入るぞ、とドリンク片手にサクサクと前を歩いていく。
久しぶりの映画館に少し緊張しながら、私は慌てて彼の後ろを歩いた。

映画館はさほど混み合ってもなく。
ゆったり座って鑑賞できる良い空間だった。
野々村は慣れたように中央のシートに座る。
後を追って隣に座ると、手に持っていたドリンクを渡してくれた。
「ん」
「あ、ありがと」
自然な流れすぎて驚くのも忘れる。

とりあえず目の前の予告を眺める。
次々と面白そうな映画のワンシーンが流れ、思わず引き込まれてしまった。
「……久しぶりに来たけど、なんだかどの映画も面白そう」
思わず呟くと、隣で彼が笑った。
「だろ?俺もそう思ってさ。で、会員になったってワケ」
ここの会員費は安くていいぞ、と勧誘のようになってきた。

「ふうん」
適当に聞き流して前を見た時
とても引き込まれる画像が流れた。

バリバリのアクション映画ーーー
実は結構好き、だったりする。
「あ、これ面白そう」

私が思わず声に出すと野々村も頷く。
「確かに。これも今度見にくるか」
「いいねー」
「じゃ、おまえも会員入れよ。格安で一緒に見れるべ」
「よし、じゃ帰りに手続きしよう」

なんだか楽しくなってきた。
映画友達、っていいかも。

高校生のあの頃だったら
こんな会話にも一喜一憂して緊張して悩んで考えて
きっとこんな風に楽しめなかっただろう
そう、ふと思った。

大人になるって、いいね。
こんなにも対等に、楽しめる。

あの時の彼女とはどうなったのか、なんて
野暮な事はどうでもいい。
今、彼と二人で楽しく映画が見れる。
それだけで、十分だった。

そしてーーー
始まったメインの映画は、やはり素敵な恋愛もので。
若い頃は様々な理由で離れざるを得なかった二人が
数年後にまた出会い恋に落ちるという

とても切なく、悲しく……だけど最後はハッピーエンド。
お決まりの流れの映画だったけれども。

「…………」
やっぱり、泣いてしまう。
こういうのに弱いのは相変わらずだ。

そのヒロインの女性がとても強く美しく
私もこうでありたい、と思わせるような魅力的な女性だった。
自分に素直に生きる。
それはとても簡単そうで、難しいこと。

でも、それを実行するからこそ
巡り巡って運命を辿り寄せたような。
彼女の強さに、惹かれた。

エンドロールが流れ、チラホラと帰り出す人達がいる中でも
私達はお互い黙ったまま、最後まで座っていた。
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