いちばん、すきなひと。
ただ会えるだけでいい。
月曜日。

教室へ入るなり、サオリが飛びついてきた。
「おっはよー!!ねえねえ、どうだった!?元カレとの再会は!?」
「元カレじゃないし」
とりあえず冷静に対処する。

「じゃ元恋の彼!とにかくどうだった!?会ったんでしょ!?」
「元恋って。どういう略」
私は苦笑する。
初恋っていう年齢でもない話だし、元彼でもない相手には確かに的確な名称だ。

サオリには状況を説明していたので、土曜日に会うことになったとまで伝えていた。

少しばかり浮かれていたのは確かだ。
一度振られているとは言え、久しぶりの再会だ。
好きだった相手に会えて嬉しくないワケがない。
だけど

「うん、普通に映画見に行っただけだよ」
「映画!いいじゃん〜それでそれで!?」
「え、だから…それだけ」
「え〜!!!!!久しぶりの再会なのに!?胸キュン展開じゃないの!?」
サオリが両手で私の肩を掴み揺さぶる。

ご期待に添えずすみません。
でも、これが事実。
男と女だし、全く期待してなかったワケじゃないけど
こんなモンだよね、と思ったのも確かで。

少しだけ、複雑だった。

昔のように、期待したくないのにしてしまう…というような気持ちじゃ無くて。
それはもう諦めた想いだから、かもしれない。

ただ、純粋に。
彼に会えたことは嬉しかった。
それだけで十分だった。

「そっか〜ますます何だよソレ案件じゃん〜気になるわ〜」
サオリは地団駄を踏んで悔しがる。
その姿が可愛くて面白くて、つい笑ってしまった。

「まあ、次もまた映画行く予定だし。なんかもう、そういう友達かもね」
私がサラリと呟いた言葉を、サオリは聞き逃さなかった。
「え!?何また会うの!?なんだ脈アリじゃん〜」
「いや違うって」

昔からこういう会話ばかりしている気がする。
なぜなんだろうか。
それはきっと、毎回相手が相手なワケで。

ああ、成長してないな自分。
と少し自嘲気味になってしまう。

「たまたま見た予告でさ、面白そうなヤツがあってね。それが2週間後に公開だから初日に行こうって」
「へえ〜」
サオリがニヤニヤしだした。
めんどくさい展開だ。

「でも、ただのアクション映画だよ。色気もへったくれもない」
「なんでもいいじゃん。デートの約束ちゃっかりしてる〜」
肘で小突かれて、照れくさくなってしまった。
期待させないで。

そう、思ってしまう。
今目の前にいる彼女にも、話題に上がる彼にも。
これ以上、期待したくないんだよ。

一度振られている相手に何を期待しろというのだ。
もう、あれこれ考えて疲れる恋愛はしたくない。

「とにかく、今はただ会うだけで楽しいから。それでいいの」
「そっかー、そうだよね。マイは楽な恋愛したいんだよね」
「そうそう」

サオリは察したのか、簡単に引き下がってくれた。
彼女のこういう優しさが好きだ。

楽な恋愛がいい。
だから、何も考えずに『今』を楽しむ。
それでいいじゃない。

こうして、私たちは
いつもどおり目の前の課題に取り組み、時を過ごした。
二週間なんて、あっと言う間だ。
< 86 / 102 >

この作品をシェア

pagetop