いちばん、すきなひと。
上がったり下がったり忙しい
あの日から、ブレスレットは毎日肌身離さず身につけている。
願掛けしているから、粗末にはできない。
しかも野々村から貰った唯一のプレゼント。

彼がどうして私にこれをくれたのか、そんなことは知らない。
だけどそれを選んだ時に、少しでも私の事を考えてくれたのだという事。
それだけが、嬉しい。

「あっ、何それ可愛い」
翌週、サオリは私に会うなりすぐに気付いたようだ。

「えへへ〜もらっちゃった」
嬉しさを伝えたくて、事の経緯を話してしまう。
「えっ、それってもう脈アリ案件でしょ!?」
「うーん、どうなんだろ」
「脈アリ」
彼女はもうそれしか言わない。

そう言われると、素直に嬉しいのだけど。
「でもさ、私…前に振られてるからね」
「それはそれ、これはこれ」
「何それ」
「そんなの過去でしょ!今は再会して気が変わったのかもしれないじゃん!」

そんなこと、あるワケ?
「いや、ないない」
私は断言した。
アイツに限って、そんなことあるワケがない。
今までどれだけ振り回されてきたことか。

「ほんと、マイはネガティブだね〜」
「恋愛以外は前向きなんだけどね〜」
二人であはは、と笑い合う。

自分に自信が無いから、かもしれないね。
私なんかが、彼と釣り合うワケがない。
彼の隣に居るのは決まって可愛い子。
そう、それが普通なのだ。

「あ」
急に私の中で、腑に落ちる考えが頭に浮かんだ。
「私、多分…普通に友達なんだよ」
「はあ?」
サオリが素っ頓狂な声を上げる。

「ほら、女の子としてじゃなくて…男友達のような。もしくは兄弟?従兄妹とかそんな類の」
「まさか」
「いや、多分そうだわ」
それなら納得がいく。

居心地が良いのも、同じノリなのも。
変に肩肘張らずに自然体で居られることも
みんな『意識しない』からだ。

女として、じゃない。
そういう事だ。
だから、あの時もあんな風に
『そーそー、イイ女っしょ』

ついこの間の事が頭に浮かぶ。

「はは……なーんだ」
自分で理由つけておいて、勝手に凹んでしまった。
悪いクセだ全く。

それでもいい、彼のそばに居られるなら。
こうしてたまに、会えるなら。

以前のような、ただの友達よりは
少しだけ、近いような気がしたから。

私は私で、他の誰かと恋してもいいんだし。
彼に振り回される必要はない。

だけど時々、あんな風に会うのは
ホッとするような時間を持つことは
いいよね。


そんな風に過ごし始めて数日後のこと。
学校帰りに、ポケットのスマホが震えた。
「あ」
ディスプレイには野々村の名前。

「もしもしっ」
「おーみやのっち、今何してる?」
「何って……学校から帰るとこだよ」
「ヨシ、じゃちょっと付き合え」
「え」

またこれですか。
隣で歩いていたサオリが、私の様子を見て相手が誰だか察知したようだ。
ニヤニヤしている。

「俺、今そっち向かってんだわ。最寄駅どこ?」
「はい!?」
全くコイツはいつも……
だけど、しょうがないから付き合ってやろうじゃないか。

私は彼に駅名を伝え、サオリと別れてそのまま待つ事にした。
そういえば来週はーーーー
ふと、思いついて。
彼を待つ間、私は近くのショッピングモールへ足を運んだ。
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