次期社長の溺愛が凄すぎます!
「なんでダメなんですか。ダメなんて言わないでくださ……」

言った途端に、ポロリと頬を何かが伝う。

実際、ダメなんだってことは、私にだってわかっている。

ずっと、あったことをないことのように、見なかったように、気にしないようにして生きていた。

心の奥底では傷ついているんだと知っていても、それに気づかないふりをして表面上だけ取り繕っていれば、表立っては何もないことにできた。

何もなかったんだと思えば、笑っていられた。


きっと、どこかで感情がマヒしてしまっていたと思う。

普段の自分が本当じゃないことも、見ないふりをしているだけじゃ何も終わらせられないことも、ちゃんと向き合って、終わらせていかなくちゃいけないことも知っていた。

でも、それはとても苦しい。

「泣かないって決めたのに……」

後から後から溢れ出てくる感情は、涙になってどんどん流れていく。

「泣いてもいいことだと、俺は思う」

「でも、藤宮さん、一度でいいって言ったじゃない……!」

涙を手の甲で拭きながら睨み付けると、彼は一瞬驚いて、それから唇を噛みしめて、首をゆっくりと左右に振った。

「怒り狂っていた若造の言葉なんか覚えていなくていい。溜め込んでいるだけじゃ、君は前に進めない」

ジャケットのポケットから取り出したハンカチを差し出され、それを見て、まざまざと“あの夜”のことを思い出す。

あの時もこうやって、真剣な表情で、藤宮さんはハンカチを貸してくれた。

……先に進めない。立ち止まったままではいられない。

それは、生きていくことと同義な気がして来た。









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