続*もう一度君にキスしたかった
どこを見て話してるんだろう、と視線の先を追おうとしたが、名前を呼ばれる方が先だった。
「真帆」
間宮さんが見ていたのと同じ方角から、ツカツカツカと早足で近づいてくる笑顔がある。
「あ、朝比奈さん」
「探した。ごめんね、ひとりにして」
する、とさりげなく腕を掴まれて軽く引かれ、間宮さんから一歩離れる。
朝比奈さんを間に挟み、三角形みたいな立ち位置になって間宮さんを見れば、なにやら私を見てにやっと笑った。
「大丈夫です、あの。偶然、間宮さんに会って。オランジュショコラの」
朝比奈さんにこのキッズコーナーに来ている経緯を説明しようとしたのだが、彼は完璧な営業スマイルを浮かべたまま、間宮さんに向き直った。
「お久しぶりですね、間宮さん。こんなところでお会いするとは思いませんでした」
「俺も驚きましたよ。本社に戻られたとは聞いてましたが本当の話でしたか」
どうやら互いに挨拶を交わすくらいの面識はあったらしい。
ははは、はははとふたり互いに笑顔なのだが、何やら急に、間宮さんまで狸に見えてきた。
さっきまで砕けた雰囲気で話していたのに、笑顔が作りものなのが伝わってくるのだ。
「おかげさまで。四月からこちらを拠点にしていますよ」
「助かりますよ、関西が楽になりますから。菓子博が近いですからね」
「ははは。僕がいようがいまいが結果はそう変わらないと思いますが」
会話から推し量るに、朝比奈さんが言ってた菓子博の販売スペース争いの件だろうか。
笑顔ばっかりキラキラして見えますが、何か黒いものが染み出していて、口を挟める雰囲気ではない。