続*もう一度君にキスしたかった


万が一、朝比奈さんが最初は共働きでもいいって言ってくれたら、繁忙期はきついけど同棲ほぼ一緒に住んでいるような今の状況とあまり変わらないし頑張れるかも、と思った。


けど、マネージャーでなくなるなら……確かに意味はない。


「それに、仕事は続けて子供が出来たら考えるとか、少しずつ諦めるしかない状況を作るようなものだよ、そういう考え方は」

「そ……ですね」


ちょっと考えればわかることだったのに、今更気付かされて頭が真っ白になった。
結構なショックだった。


結婚か仕事かの完全な二択で、真ん中をいいとこどりなんて選択肢は端からなかったのだ。


「仕方なく諦めていくような思いはさせたくないしね。そもそも、こんなに悩ませるつもりで君を独占したいなんて言ったわけじゃないんだ。僕はそういうつもりでいるからって伝えておきたかっただけ」

「でも」

「だから真帆は、気が済むまで仕事してなさい」

「それじゃあ、朝比奈さんは?」


それでは、私の希望ばかりじゃないか。


「僕は今までどおりだよ」

「え?」

「真帆が早く結婚したいと思うように、色々策を練ってみるよ。気長に口説く。……今まで通りね」


そう言った朝比奈さんは、なんだかとても楽しそうに見えたのだが、それは気のせいではないらしい。


「結婚って本来そういうものでしょう。妥協や惰性でするものじゃない。それにどう口説き落とそうか考えるのは、結婚する前しかできないことだしね」

「……楽しんでますか」

「楽しいよ。真帆といると」


ソファに押し倒されたままで、朝比奈さんの手が私の髪を撫でた。
それから目尻や瞼に口づけられて、その都度目を閉じる。


「結婚はしたいけど、真帆が傍にいてくれれば形はなんだっていいのかもしれない」


こんなにストレートに、愛されて必要とされている。
それを伝えられる幸せにじんと目頭が熱くなり、なんだかとてもたまらない気持ちになって彼の首筋に縋り付いた。

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