続*もう一度君にキスしたかった



九月、十月は店舗が穏やかな時期なので、あの突発事故のようなミスさえ起きなければ落ち着いて仕事がこなせる時期だ。
といっても、暇だというわけでもなく、クリスマス商戦の下準備は既に始まっているのだが、仕事の流れが確立しているので、残業もそれほどなく定時に帰れる日が続く。


この先、ぞっとする繁忙期が待っている……それを身をもって知っている私たちは、自然どちらからともなく、一緒に居る日が増えた。


ほぼ毎日、どちらかの家でふたり一緒に居る状況は、同棲と何も変わらない。
甘い蜜月を過ごし、『木藤』という人のこともその内気にならなく……と、いうわけにもいかなかった。


仕事の関係の人のはずなのに、プライベートな時間をいつも狙って着信が鳴る。
通話でかけてくることはなく、いつもメッセージのようだった。


「朝比奈さん、メッセージ入ってるよ」


相変わらず携帯放置の朝比奈さんより、先にメッセージに気づくのは私ということが多い。
毎日、というわけでもないのだけど、どうでもいい内容であったりもするようで、最近朝比奈さんは返信しないことも増えた。


そして今は、というと。
ソファに座る彼に腰を抱き寄せられ、今まさにキスをしようとしていたとこで着信が鳴ったわけだが。


朝比奈さんがぴくっと眉を痙攣させた。
明らか、今イラっとしてた。


「いいよ、この時期急ぎの連絡なんてないだろうし後で見る」

「でも万が一……大事な連絡かもしれないし」


キスを続けようとする彼の唇を手のひらで遮って、笑顔を乗っける。

暫し沈黙の後、ふっと、彼が溜息をついて私の腰にあった手を緩める。
私はテーブルに手を伸ばして、彼のスマホを手に取り差し出した。
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