続*もう一度君にキスしたかった
病院に着いて、救急の入口から警備員に事情を説明して中に入れてもらう。


笹木さんのところに、恐らく木藤さんからなのだろう。
検査が終わって、つい先程病室が決まったと連絡が入っていた。


「処置でちょっと時間もかかってましたしね」


と、笹木さんが補足して説明してくれる。


「え、何か、大変だったんでしょうか?」

「何針か縫ったんだと思うので」


想像しただけでぞっとして、病室に向かう足も早くなる。


薄暗い院内を進んで病室の前に着き、微かに話し声が扉の向こうから聞こえる中、笹木さんがノックをした。


「どうぞ」


しっかりと聞こえたのは、朝比奈さんの声だ。
笹木さんに続いて、中に入るのにも気が逸る。


個室で、入口とベッドとは、クリーム色の薄いカーテンで目隠しをされていて。


「朝比奈くん、パジャマと洗面具は買ってきたから、足りないものがあったら言って」


少しハスキーな、女の人の声もした。


「多分明日には退院なのに」

「一日でも歯は磨くでしょうよ」

「遅くなったけど帰りは? 付き添ってくれなくても、僕だけでなんとかなったのに」

「タクシー乗るわ。私のせいなんだからそんなわけにいかないわよ」

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