続*もう一度君にキスしたかった


「ごめんなさい、こんな時間に来ちゃって……」

「僕は嬉しいけど、仕事の後で疲れてるだろうし遅くなったら危ないから……」


彼は検査着のような簡易的なものを着ていて、ベッドには入らずに腰を掛けていて、掴んだ私の両腕を引き寄せ真正面から迎えてくれた。


「だからって、いてもたってもいられないよ」


いくら大丈夫だからと言われたところで、きっと気になって寝ることなんて出来なかった。


けれど、そのことで余程責任を感じているのだろう。
笹木さんの朝比奈さんへの説明が、やけにビクついた声で聞こえてきた。


「す、すみません! 心配させないようにしてくれと言われてたのに、説明不足で」


顔だけ振り向くと、ペコペコと一生懸命頭を下げている笹木さんがいる。
あ、これってもしかして『鬼の朝比奈』効果なのかと気が付いて、慌ててフォローした。


「違うの、ごめん。私がろくに説明聞かずに慌てて来ちゃって、だから笹木さんがわざわざ新大阪まで迎えに来てくれて……」


言いながら朝比奈さんを見ていて、髪や肌の一部に目が行く。
拭いきれなかったのだろう、僅かだが血の付着しているのをところどころに見つけ、一気に血の気が下がった。


出血が多かったとは聞いていたけれど、こうしてその名残を見ただけでぞっと背筋が凍る。

< 66 / 166 >

この作品をシェア

pagetop