《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「っ…やっぱり、何でもない!」

「……ジュリ。今日はどうしたんだ? まあ、ジュストベルのお仕置きもあったし疲れただろ? もう今日はこの位にしとこう。一緒に大浴場に行って汗流そうよ、背中流してやるよ!」

「うん、ごめんなアーサ」

「ん? 何で謝るんだ?」

 不思議そうに首を傾げるラインアーサ。
 この奇妙な気持ちを分かってもらいたいのに知られたくない様な、妙な感覚に苛まれ自分自身に苛立ちを覚えた。

「いや、何か心配ばっかかけてさ。あと……俺やっぱり今日は一人でゆっくり風呂に入るからアーサ先に行ってていいぞ」

「そうか? じゃあ悪いけど先に行ってるよ。俺もう汗だく! ジュリ、今日もありがとうな。ジュリがこうして稽古つけてくれて凄く助かってる。また時間が合う時お願いするよ」

「ああ、またな」

「じゃあまた」

 ラインアーサは軽く伸びをしてこちらを向くと再び微笑んでジュリアンをドキリとさせたままに中庭を後にした。

「……天然人たらしめ」

 もちろんジュリアンも汗まみれだったが、不意に目に入った稽古用の剣を咄嗟に拾い上げると一心不乱に素振りを始める。無心になりたくてしょうが無かったのだ。

「はあ……どうしたもんかな」

 柄にもなく溜息を吐くと素振りの型が乱れ、重ねて溜息が漏れた。


 数刻前、ジュストベルから仕置き以外に言い渡された事が頭から離れない。

 〝このままだと自分の存在がラインアーサの邪魔になる〟

 確かにはっきりとそう告げられた。

 自分自身で何となく気づいていたのだが、実際に指摘されると内臓がぶれる様な、重い衝撃が突きあげた。
 正直、仕置きよりもこちらの方が堪えた。

 ジュストベルの言わんとする事は分からなくもない。それでもラインアーサと距離を置くという選択肢がまず無い。いや、今まではなかった。しかし先日身をもって感じた事を無視出来るほど器用でもない。
 無心になろうと剣を振れば振るほど雑念が増していく様だ。

「だあああ! ったく、やめやめ!! うだうだ考えるのは性にあわないって。俺も汗流しに行こう」

 とりあえず深く考えるのを諦めたジュリアンは稽古用の剣を片付けて中庭を後にした。


 それから数日、何となくラインアーサとの接触を必要最低限の事以外は減らして過ごしてみた。が、これがなかなか難しい。何せ物心着いた時からずっと一緒に過ごしてきたのだから。
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