《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「アダンソン隊長なら大丈夫だ」

「はい…!」

 その手の温もりは何処と無くグレィスと似ていてほんの少し不安が薄れた。

 正しい情報を得て尚、場内は落ち着かない。それもそのはず、シュサイラスア大国及びリノ・フェンティスタ全土が今日迄この様な事態に遭遇した事がないのだ。

「──然る事乍ら、お前達訓練生はまだ正式に警備隊の隊員ではない。しかし国の緊急事態条項に従い、たった今からお前達を隊員として扱う事とする! 半数以上は国境警備隊の応援に、残りは王宮と都の警備に向かってほしいのだ!」

 更に場内がどよめいた。

 事態は急と言えども、ジュリアンはたった半年間ここで訓練を詰んだだけで現場に駆り出される事になる。
 だがそれでも国の緊急事態だ、微力でも力になれるのなら構わないと気合を入れた。

「先輩…! 俺、父さんの所に行こうと思います!」

「そうか。オレも港町に…」

 しかしまだカルデイロの説明は終わってなく、見るからに重苦しく口を開いた。

「……もう一つ。もう既に皆の耳に届いているかもしれんが聞いてくれ。この事態はルゥアンダ帝国とマルティーン帝国が企てた暴動という事が分かっている。そしてこれはまだ不確かな情報なのだが、、王宮が狙われたそうだ」

「っ!! そんな……王宮が、狙われた!?」

 緊張感が高まり静まり返った場内。更にカルデイロは苦虫を噛み潰した様な表情で悔しそうに言葉を発した。

「……本日。国王陛下は定例会にご出席の為、王宮をお留守にされていた。そこを突かれたのだろう…っ……王妃様達の身が危険に晒され、現在。王宮警備隊が王妃様はもちろんイリア様とアーサ様、両殿下の安否確認を急いでいる…早急に小隊を組み各々現場に向かって欲しい!!」

 衝撃的な話の内容に目眩が起きる。ラインアーサ達が狙われたと知り目の前が真っ暗になった。

 ジュリアンが全てをかけて守りたかったものが一度に失われていく、そんな感覚に陥る。

「おい、しっかりしろ!」

「クロキ……先輩」

 足から力が抜け、立っているのもやっとで気づくとクロキに背中を支えられていた。

「お前。王宮には家族がいるのだろう?」

「はい……。じい様と母さんと、妹と…あと……」

 ジュリアンが何としてでも強くなって守りたい大切な存在。

 大切な(あるじ)ラインアーサ。

「それならばお前は王宮に向かえ。オレは港町の応援に向かう」
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