《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 クロキの凛とした声にはっとなり、ジュリアンは左右に頭を振った。
 ラインアーサの事はもちろん心配だが、国境の街で健闘しているであろうグレィスの事も心配だった。

「い、いえ! 俺も港町に行きます…!」

「やめておけ。そんな状態で現場に赴いてもかえって足でまといになるだけだ。お前はまず家族の安否確認をしろ! いいな?」

「でも…!」

「でもじゃあない! アダンソン隊長の事なら及ばずながらオレが力添えする」

「っ…わかりました! でも、家族の安否確認が出来たら俺もそっちに向かいます!!」

「……分かった」


 此処へやって来てから毎日、何度も整列の訓練をして来た。しかし今は訓練ではなくこの国を守る為、それぞれ小隊列を組むと現地に赴いた。
 今まで此処で学んだ事を最大に活かせる様、皆が心構えを強く持つ。


 ───ジュリアンは訓練場でクロキと分かれ、王宮警備の小隊へ加わり、そのまま王宮へと向かった。

 たった半年帰っていないだけなのだが酷く懐かしく感じる王宮の正門を潜るも、不気味なほどに静まり返っている。
 いつも爽やかな風が通り抜ける白亜の王宮は、混乱と悲しみに包まれていた。

 入ってすぐの広間には絶望感が漂っており、立ち尽くす小間使いやどうして良いのか分からず座り込んでいる者も多数。

「…っ一体、王宮で何が……?!」

 ジュリアン達は到着するなりその者達に駆け寄ると、怪我人等が居ないか確認して回った。
 特に大きな怪我を負った者はいない様だが皆、恐ろしい物でも見たかの様に怯えている。

「体調が優れない者は医務室へ! その他の者は大広間へ! 持ち場は我々警備隊に任せてくれ! もうすぐ国王陛下が戻られる筈だ、それまで皆で安全な場所へ!!」

「皆さんー! 大広間へ!!」

 警備隊が到着したことにより王宮内の役人や小間使い達が大広間へと促されてゆく。
 ジュリアンも声掛けや誘導など今自分が出来ることを精一杯やっていた。

 流れる群衆の中から見知った声が上がり振り向く。

「おにいちゃん!!」

 ジュストベルに手を引かれていたリーナがジュリアンに気付き駆け出てきた。身内である二人の無事な姿に心底安堵した。

「リーナ!! じい様も!!」

「おにいちゃん…っおにいちゃん!!」

 リーナは涙を拭いもせず力いっぱいジュリアンに抱きつくと小さな声で「ごめんなさい」と何度も呟いた。
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