《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「いらなく、ないよ……あるなら読みたい」

「う……あ、じゃあ机の上に置いとくからさ、読めそうな時にでも……ち、ちなみに恥ずかしいから返事は要らないし」

「ありがとうジュリ……じゃあ今日はもう休むよ。ジュリもゆっくり休んで」

「ああ、もちろん。おやすみ」

「おやすみなさい」

 お互い挨拶を交わし、ジュリアンは寝室を後にした。
 あの日からずっと持ち歩いていた為皺くちゃになってしまったラインアーサ宛の手紙を衣嚢から出すと、部屋の机の上に置いて逃げるように部屋からも退室した。

 走り去りたい気分だったが、ふと目線を上げるとその先にジュストベルが居た。

「うわっ、じい様! 俺まだ走ってないからな!!」

「……何を喚いているのです? ジュリアン。それよりもラインアーサ様の様子は如何程でしたでしょう」

「うん……今日はいつもより多く話したかな。でも、ものすごく苦しんでる……今にも壊れそうで見てられないってか、一体誰がアーサをあんなにしたんだよ! 俺、許せないよじい様…っ! アーサから笑顔を奪った奴が……そしてアーサを守れなかった自分も…!!」

 ジュリアンは奥歯に力を込め拳を固くした。

「少し、落ち着きなさいジュリアン。……そなたは頑張り過ぎです」

「俺は……全然頑張ってなんか!」

「全く。このままではそなたも体調を崩しますぞ?」

 ジュストベルはそう言って素早く頭上に陣を描くとジュリアンの身体の疲れを癒した。
 ジュストベルの扱う光の煌像術(ルキュアス)は純度が高い。

 癒しの煌像術(ルキュアス)以外にも様々な技術を保持しており、今回破壊された列車(トラン)の路線も得手とする修復術を警備隊に教授し、現場でも進んで指導していた。その甲斐と努力があって早期に列車(トラン)の再開が実現したのだ。

「あ、ありがとう……でも、じい様だって疲れてるだろ?」

「孫に心配されるほど衰えてはいません」

「なんだよ心配してるってのに!」

「私はそなたの方こそ心配です。そなたの警備隊としての活躍、耳にしております。最年少ながら良くやっていると」

 珍しくジュストベルに褒められ動揺するジュリアン。それでも一番聞きたい事をジュストベルへと問うた。

「なあ……じい様。イリア様は一体何処に居るのかな」

 ラインアーサの前では無論、リーナやエテジアーナのいる前で流石にこの話題は出来なかった。
 あれから数か月経った現在もイリアーナの所在は掴めていない。
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