《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
旧市街から坂の街 ペンディ地区を抜け、怪我人や負傷者を乗せる搬送用の馬車の中へと一緒に乗り込む。
「───しかし、何だか不思議な奴だよなこいつ。確か……マリ? の気配が何とかって」
「うん。そのマリって人を探してるのかな? でもこの人の名前、聞きそびれちゃったね」
完全に意識を手放したその顔を覗き込む。血や汚れ等を綺麗に落とし、改めて特徴を捉えてゆく。
深い榛摺色の髪に青白い肌。綴じられた瞼の下には漆黒の瞳。
どう見てもこの国の者では無いのは一目瞭然だ。やはり内乱の被害にあい、シュサイラスアに流れて来たのだろうか。
気を失ったのは怪我で血液を多く失ったからだろうとアマランタが言っていた。
「とりあえず。この馬車はこのまま城下の街の診療所に着けるから、負傷した者達の受け入れ手続きは俺たちに任せてアーサは先に王宮に戻ってろよな」
「ん……分かった。あ、そうだジュリ! これ、ありがとう。使わせてもらってたよ」
ラインアーサは両手を顔の前に突き出すと、手首に装着した腕貫きを見せた。
短い丈だが丈夫な布製のそれは、ジュリアンが先日の手紙に添えてラインアーサに贈った物だ。
「お、おう。少しデカいな。て言うかお前さ、その拳の傷痕いい加減ちゃんと治せよな!」
「大丈夫、調節できるし大きい方長く使えるから嬉しいよ。それにこの傷は……ジュリが治してくれたんだからこのままでいい」
「そのままって…! 俺がかけた下手な煌像術のせいでずっと痕が残ったらどうするんだよ?」
「それでもいいんだ」
「まったく……。じゃあ俺がもっと煌像術の腕を上げてちゃんと痕消してやる。それまではそれ使って隠しとけよ?」
「うん大切に使う!」
ジュリアンはラインアーサとまたこんな風に他愛のない会話が出来る事に安堵を覚えた。安堵とと言うよりは自分だけが身勝手に安心と言う安らぎを感じているだけなのかもしれない。
このままラインアーサの傍で何にも脅かされる事無く日々を過ごして良いのだろうかと考えた。
「……いや、良くない」
「ん? 何が……あ、気がついたみたいだよ」
「ん…っ」
小刻みな馬車の振動に揺られながらも額を抑えて起き上がったその人物は、馬車の中を落ち着かない様子で見渡した。
「……?」
「起き上がって大丈夫なのか? 何か食えそうなら炊き出し用のパンがあるぜ」
「……」
「大丈夫? まだ何処か痛む?」
「───しかし、何だか不思議な奴だよなこいつ。確か……マリ? の気配が何とかって」
「うん。そのマリって人を探してるのかな? でもこの人の名前、聞きそびれちゃったね」
完全に意識を手放したその顔を覗き込む。血や汚れ等を綺麗に落とし、改めて特徴を捉えてゆく。
深い榛摺色の髪に青白い肌。綴じられた瞼の下には漆黒の瞳。
どう見てもこの国の者では無いのは一目瞭然だ。やはり内乱の被害にあい、シュサイラスアに流れて来たのだろうか。
気を失ったのは怪我で血液を多く失ったからだろうとアマランタが言っていた。
「とりあえず。この馬車はこのまま城下の街の診療所に着けるから、負傷した者達の受け入れ手続きは俺たちに任せてアーサは先に王宮に戻ってろよな」
「ん……分かった。あ、そうだジュリ! これ、ありがとう。使わせてもらってたよ」
ラインアーサは両手を顔の前に突き出すと、手首に装着した腕貫きを見せた。
短い丈だが丈夫な布製のそれは、ジュリアンが先日の手紙に添えてラインアーサに贈った物だ。
「お、おう。少しデカいな。て言うかお前さ、その拳の傷痕いい加減ちゃんと治せよな!」
「大丈夫、調節できるし大きい方長く使えるから嬉しいよ。それにこの傷は……ジュリが治してくれたんだからこのままでいい」
「そのままって…! 俺がかけた下手な煌像術のせいでずっと痕が残ったらどうするんだよ?」
「それでもいいんだ」
「まったく……。じゃあ俺がもっと煌像術の腕を上げてちゃんと痕消してやる。それまではそれ使って隠しとけよ?」
「うん大切に使う!」
ジュリアンはラインアーサとまたこんな風に他愛のない会話が出来る事に安堵を覚えた。安堵とと言うよりは自分だけが身勝手に安心と言う安らぎを感じているだけなのかもしれない。
このままラインアーサの傍で何にも脅かされる事無く日々を過ごして良いのだろうかと考えた。
「……いや、良くない」
「ん? 何が……あ、気がついたみたいだよ」
「ん…っ」
小刻みな馬車の振動に揺られながらも額を抑えて起き上がったその人物は、馬車の中を落ち着かない様子で見渡した。
「……?」
「起き上がって大丈夫なのか? 何か食えそうなら炊き出し用のパンがあるぜ」
「……」
「大丈夫? まだ何処か痛む?」