社長は今日も私にだけ意地悪。

その後、予定通り待ち合わせ場所へ向かい、四人を車に乗せて会場まで移動した。

会場のイベントホールに着くと、まずは彼等のを連れてスタッフさん達に挨拶をして回った。

今日のステージとなるホール内を、挨拶をしながら改めて見渡していると、後ろから

「柳葉さん」

と男性に声を掛けられる。振り向くと、そこにいたのは大兼さんだった。


「大兼さん! おはようございます! 今日は起用いただきまして誠にありがとうございます! 精一杯努めさせていただきますのでよろしくお願いいたします!」

思わず、大袈裟なくらいに声を張り上げて頭を下げてしまったけれど、後ろにいた四人も「よろしくお願いします」と礼儀正しく挨拶をした。やっぱりこの子達、根は真面目なのよね。不躾な態度は私の前だけで。


「こちらこそよろしくお願いします。ネットでも話題になっていますよ。〝アプリで流れた話題の曲を歌う新人アーティストが今夜テレビ初登場〟って」

「ご期待に添えられると良いのですが」

「はは。なるべくリラックスしていつも通り演奏してください。どうしても有名アーティスト達がメインになってしまう為、インディーズ枠の皆さんの紹介は殆どないのが申し訳ないですが……あ、そうだ」

大兼さんは急に真剣な表情になり、私を見つめる。そして。

「実は、どうしても外せない用事が出来てしまいまして、生放送の途中で抜けなければならないんです」

「そうなんですか」

「なるべくすぐに戻りますが、その間、城田(しろた)という者が私の代理として現場を仕切ってくれます。あそこにいる男性ですよ」

そう言って大兼さんが指差したのは、少し離れた場所で他のスタッフと打ち合わせをしている四十代位の男性。黒縁眼鏡と口周りの濃い髭が特徴的な人だった。


「少々気性が荒いところがある男ですが、かならず番組を成功させてくれると思いますので」

気性が荒い、と聞いて少し緊張したけれど、私は「はい」と答えた。
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