社長は今日も私にだけ意地悪。
「凛くん、久し振りだねぇ」

そう言いながら俺に熱いコーヒーを出してくれる広香の笑顔と声は、あの頃と何も変わらない。


「そうだな」と答えながらコーヒーを啜ると、広香はまた笑った。相変わらずよく笑う奴だなと思うけれど、あの頃よりも嬉しそうに笑っている気もする。


今日、ここへ来たのには深い意味はなかった。

ミュージックインホームの例の生放送が終わり数日が経った頃、広香から【この前、テレビ観たよ。感動した。】というメッセージが送られてきた。そしてその話の流れで、今度久し振りに会おうかということになり……オフの今日、こうして広香の家にお邪魔している。


それにしても、広いマンションだな。ボロアパートに住んでいたあの頃とは全然違う。

借金に悩んでいた広香が、今はこうして不自由ない生活をしていること、自分のことのように本当に嬉しく思う。


そう、



「あれ、誰が来ているのかと思えば……君か」



……広香と一緒に暮らしているのが、この男じゃなければもっと嬉しかったけどな!



相変わらずの無表情顔でリビングに入ってきた響 涼太は、今は広香の旦那だ。



「ちょっと涼太さん。凛くんが遊びに来るってちゃんと話してあったでしょう?」

「ああ、覚えてた覚えてた」


いや、嘘だろ。絶対忘れてただろ。もしくはどうでもいいと思っていただろ。


……俺とこの男も、かつては同じアパートに住んでいた間柄だけれど、決して仲は良くない。
というか、悪い。
いわゆる恋敵だったからというのもあるかもしれないが……それ以前に性格が合わない。
俺はこいつの何考えてるのかわからない上にいちいちカンに触る言い方をしてくるところが嫌いだし、こいつはこいつで、思ったことを何でもぶつけてくる俺のことが嫌いだろう。
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