彼と愛のレベル上げ
アヤノさんの選んだお店はトラットリア。

席についてメニューを見れば私たちが普段行っている創作料理のお店とそう変わらない値段。


「ここはね。向こうにいた時に朔也と行っていたお店と良く似ているの」

「家庭的な感じが素敵ですね」

「そうなのよ、桃華ちゃん。ここはご夫婦でされていてね……


アヤノさんはこのお店のご夫婦が大好きで。一人でもよく通っているという。
どうやらこのお店のご夫婦のようになりたいと思っているらしい。


「アヤノもこう見えて根は真面目ですからね」

「あいかわらず、堂地君は失礼ね」


いつのまにかまた言いあいが始まる二人。

そういえば、主任とアヤノさんも同級生だけあって並んでいると違和感はない。

アヤノさんだったら、主任とお似合いで「私が彼女です」って自信を持って言えるんだろうな。


「……ねぇ、桃華ちゃん?」

「え?あ、はい?」


二人の言いあいを上の空で見つめていたせいで急にふられて何を聞かれているのかわからない。

「こんなに口の悪い男じゃなくて、もっと素敵な人紹介するわよ?」

「え?あのっ、でも…」


ちらっと主任を見ると眉間にしわを寄せて心外だとばかりにアヤノさんを見ている。


「いえ、あの、私は大丈夫です」

「本当に?後悔しない?」


後悔なんて、
主任が後悔するならまだしも私がするわけない。


「えーと、あの、逆に私でいいのかと主任に聞きたいぐらいで……」

「そんなこと言って。堂地君をこのまま野放しにしていたら、そのうち桃華ちゃんの事、監禁するかもしれないわよ?」

「アヤノ、それは言いすぎ」


監禁なんて怖い言葉が出てきて主任も慌ててるけど。


「あら、私は大げさだなんて思ってないわよ?」

「いや、それはさすがに人としていけない事だとわかってる」


いけない事だとわかってるって、そんな言い方するとアヤノさんに誤解されちゃうのに。


「それってそうしたい気持ちがあるっていう事でしょう?」

「…まぁ否定はしません」

「ね?こんな危険な人でいいの?桃華ちゃん」


――主任がそうしたいなら


「私は大丈夫です……」

「桃華ちゃんは、堂地君に甘いわねー」

「アヤノとは違うんですよ。モモは優しいですから」


優しくなんかない。
閉じ込めておいてくれるなら、そうしてくれた方が何も見ないで済む。
そう思ってしまっている自分はやっぱり優しくなんかない
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