彼と愛のレベル上げ
電車をいくつか乗り換えて待ち合わせ場所に向かう。

今この場に置いて行かれたら、間違いなく迷子になる。

東京の地下鉄は便利だというけれど、慣れない私には迷路のようなものにしか思えない。

移動中にメールをと言われていたけど、乗り換えばかりでゆっくりメールを打つ暇もないぐらい。

どうせアヤノだから、適当でいいですよなんて冷たい事を言う主任。そんなわけにはいかないのに。

なんとかメールを終えて送信した瞬間に聞こえてきたのは目的地に到着するというアナウンス。


「モモつきましたよ」

「たったいまメール送ったんですけど…」

「大丈夫ですよ、モモですから」


私なら大丈夫っていう意味がわかんないです、主任。

携帯をしまうと、あたり前のように繋がれる手。

迷子防止なんて主任が言うから、あの時と同じくただそれだけの理由なのかと思うと悲しくなる。


「ちゃんと付いていきますし、迷子になりませんよ?」

「迷子防止なんてただの言い訳です。モモとそうしていたいからに決まってるでしょう?」


当たり前のことをいまさら何をと付け加えて繋ぎなおされるその手。

その言葉だけを信じたいのに、なぜ今の私はそれを信じられないんだろう。



待ち合わせのお店は駅のすぐ近くだった。そこにアヤノさんが待っているのが見えた。



「桃華ちゃん」と声が聞こえてきたかと思ったら、アヤノさんに苦しくなるぐらいにハグされてた。


「アヤノ、モモが苦しがってるから」

「あら、堂地くん。羨ましいんでしょう?」

「そうですよ、だからさっさと離れてください」

「スーツ姿の桃華ちゃんも可愛らしいわね」

「あたりまえです。俺のですから」

「あら、堂地君のものだなんてまだ決まったわけじゃないじゃない?」

「あいかわらずアヤノは可愛くないですね」

「それでもいいって朔也は言ってくれてるからいいの」

「はいはい」


何だろう、このやり取り。

アヤノさんから剥がされて主任の後ろに隠れる様にされた私。
そんな二人の会話に入れずにハラハラしながら見守るしかない。

朔也さんがいれば、ここでうまく二人を止めてくれるんだけど今日は私しかいない。


「あ、あのっ」

「「なに」」


二人に同時にそう言われて一瞬怯んだけど、ここで負けてはいけない。


「なか、入りましょう?」

「そうですね」

「アヤノで予約してあるから」


そう言うとアヤノさんが先に中に入っていった
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