ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「何を根拠に?
そんなことを言うんだ?
 彼女に訊いたのか?」  


シェパードは疑念に満ちた声で、沙希に問う。  



「訊いてもないですし、確証はありません。
でも、彼女はそう想ってます。
間違いありません」  



「じゃ、もしそうだとしよう。
でも、今更どうしようもないじゃないか。
彼女は鷲尾と結婚したんだぞ」  



――籍を入れてる?


そこまでは聞いてない。
唖然とする沙希の前で、シェパードの手が震えている。


どうにもならない苛立ちがそうさせているのだろう。
と同時に確信する。


シェパードもやはり新川恵美を想い続けているのだ、と。  


「部長は 彼女が去ろうとした時、
理由を訊いたんですか?」  


コリーがその話をしたとき、シェパードは追いかけたがすぐに戻ってきたと言っていた。
結婚まで考えた彼女に対して、問い詰めるまでのことはしたんだろうか?  



「もちろん、訊いたさ。
だけど、彼女は1点張りさ。
俺を嫌いになったってね。
それ以上、訊くことはないだろう」  


やはりだ。
高慢なハイスペック男の典型的なパターンだ。


高学歴、高収入、高身長、イケメン…彼らハイスペック男子に群がる女は少なくないはずだ。


だから、勘違いする。
俺を嫌いになるわけがない、と。  



「おかしいって 思わなかったんですか?」  



「おかしいと思ったさ。
だから、何度も連絡した。
でも、電話にも出ない
どこにいるかもわからない

そんな状況で何ができる?」  



「彼女が突然去った日の前日、
鷲尾会長の接待に行ったそうですね。
そこで何かあったとは
思わなかったんですか?」  




「接待で?」
シェパードの眉間に皺が寄る。
「何かが?」





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