ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「鷲尾会長と彼女の関係は
私は知りません。
でも、彼女が駆け引きの末に
今の状況を選択したとしたら
そこに気持ちはないと思います」  



「駆け引きって」
シェパードの眼が鋭く光る。
「どういうことだ?」  



「鷲尾会長から何かしらの交渉を
持ちかけられた可能性があります」  



「何で?
そんなことを君が?」  



「私も… されているからです」  



「まさか、」
信じられないといった表情でシェパードは目を見開いた。 「何で言わなかったんだ?」   



「言わなかったんじゃなくて
言えなかったんです」  



「どうして?」  



「大和部長に関ることだと
鷲尾会長は脅してきました。
だから、彼女も
大和部長絡みのことで
何かしらの交渉と称して
脅迫されたんだと思います」  


そう聞いた途端、シェパードは苦痛の表情を浮かべ、両目を閉じ、天を仰ぐ。
天井を向いたまま茫然とするシェパードに沙希が続けた。  


「部長、
部長はまだ彼女を想ってますよね?
だったら、関係ないじゃないですか。
結婚してるって言ったって、
たかが紙ッ切れ一枚のことです。

問題は二人に気持ちがあるかないか
そこじゃないんですか?」  


熱のこもった沙希の言葉に、黙り込んでいたシェパードが視線を戻す。
黙ったまま、沙希から視線を離さない。


何も答えないことが、シェパードの気持ちを暗に示している。
視線を外し、一つ深いため息をついたシェパードが答えた。  



「教えてくれてありがとう。
ところで、君は何の交渉を
持ちかけられてるんだ?」  



「秘書になれって… 言われました。
で、断ると、 大和部長の進退に関る…と」  



「な!?
俺の進退に関わる?
鷲尾の野郎、
よくそんなデタラメが言えるな」  



「私、どうすれば…」  



「簡単だ。君は断ればいい。
そんな子供だましの脅しに
屈する必要はないよ」  



「わかりました」  



「それにしても、
あの強欲ジジイ
何考えてるんだ、一体…」  



「明日、プレゼンですね」  



「ああ。
今回の商談も合わせて
決着をつけてやるよ」  


そういうと、いつもの優しい笑顔のシェパードに戻っていた。
その笑顔を見て、沙希も安堵した。

とそこでバッグの中から携帯の着信音が鳴った。  



――ハチ?  


そう思いながら画面を見て、沙希は青ざめた。
画面には「由紀恵さん」と表示されている。  



――子猫?  






< 122 / 153 >

この作品をシェア

pagetop