ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



新宿駅の東口を出て、歌舞伎町の映画館街へと足を運ぶ。
土曜日の新宿はいつにも増して人波で溢れていた。

映画館の前まで来ると、当然のように行列ができていた。  

「ちょっと待ってて」  


そう言うと、ハチは受付まで行ってすぐに戻ってきた。
疲れている私を気遣って、座って観れるよう次の回に予約だけしたらしい。


ビル管理の会社に勤めるハチは、優先権があると得意気に鼻を高くしている。
とはいえ、次の回までは、まだ小一時間ほどあった。


何もせず、立っているのも二日酔いの身には辛い。
ハチのリードを引っ張り、時間つぶしにと近くの喫茶店に入った。  


席に着いて、ハチはホットを私はカフェラテを注文した。店内にはジャズが流れて、洒落た雰囲気に気持ちも落ち着く。
窓の外の急いで行き交う人波を見ると、ゆったりした店内は別世界のようだ。


しばらくその光景をみていたが、ふと向かいのブティックのコートに目が止まった。
白の膝上丈で、襟足に派手過ぎないファーが付いている。  


――可愛いコートだなぁ  


注目する私に気づいたのか、後で寄ろうよとハチが言う。ゆっくりと珈琲を飲み干して喫茶店を出ると、向かいへと歩を進めるハチ。


でも、その店は知る人ぞ知る高級ブランドのセレクトショップだ。
どうせ高いからって躊躇する私に、観るだけだからと無知なハチが笑う。
ズカズカと店に入るハチに促されて、沙希も続いて店内に入った。  


やはりだ。
値札をひっくり返すと、¥128,000とある。
財布と相談する必要すらない。


なのに、既に店員が付かず離れずのベストポジションで待ち構えていた。    



< 21 / 153 >

この作品をシェア

pagetop