ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「どうぞ、ご試着なさってください。」  


「そうだよ」
作り笑顔の店員にハチが乗っかる。
「着るだけ着てみればいいじゃん。」  


渋々そのコートに袖を通すと、サイズはピッタリ合っていた。
鏡に移った自分を見て、衝動が泉のように湧き上がってくる。  


――これ、欲しい!  


「すごくお似合いじゃないですかぁ!
これ、すっごく人気でぇ、
当店でもあと現品のみですからね。」  


マニュアル通りのセールストーク。
ニッコリ微笑みながら、脅迫している。
今買わないと後悔しますよ、と。  


――誕生日近いしなぁ……もしかしたら…  


期待半分でハチのほうを振り返ると、値札が見えたのか完全にシッポが垂れている。  


――やっぱり、諦めるしかない…か  


ジャストサイズだったのを見られていながら、ちょっとキツいかなと首を傾げながらコートを脱いだ。
惜しみつつもコートを店員に渡して、二人でそそくさと店を出る。


が、そこで、ふと邪念が湧いた。  


――シェパードだったら


――こういう時買ってくれたりするのかな  


浮かんだ想像をサッとかき消して自嘲する。


やっぱり女はわがままで、そして欲張りだ。  


ハチはハチなりに頑張ってくれてるじゃない。
二人は年齢も違えば、立場も違う。
今だけを比べるのはいかんせん可哀想だし、しちゃいけない。
たらればを言い出したら、キリがないからね。


それに私は飼育系女子だ。 ハチには忠誠心さえあれば、それでいい。
気持ちを切り替えて、上映時間が迫った映画館へと向かった。


 
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