ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「お連れ様が到着なさいました」
「入れ」
私のお酌を邪魔をするなと言いたげに、土佐犬が不機嫌そうに声を掛ける。
襖が開き、スーツ姿の中年と若い男がそそくさと中に入ってきた。
「遅れまして、申し訳ありません」
「とっくに始めてるぞ」
沙希が注いだ酒を飲み干すと投げやりに言い放った。
二人も頭を下げながら、そそくさと席に向かう。
仕切り直しかなと思い、沙希も席に戻った瞬間、言葉を失った。
亀井という上司に次いで席についた若い男。
髪をキッチリと分け眼鏡をかけていてわかりづらかったが間違いない。
三日前、無理矢理唇を奪った薄情者ハスキーだ。
向こうも沙希に気づいて一瞬驚いていたが、咳払いでごまかしている。
何てことだ。
6年間も会うことはなかったのに…。
こんなこと、奇遇という一言で済ましていいんだろうか?
握り締めた拳に汗が滲む。
と同時にあの晩に沸いた疑問が飲みこめた。
1次会で初対面を装って会話してる最中に何気なく訊かれた時のことだ。
仕事は何されてるんですか?という質問に、WAONの営業企画部で働いていると答えた。
こっちもハスキーが何してるのか?と聞き返そうとしたが、彼は私の職場を聞いた途端、急によそよそしくなって話題を変えた。
その時はさほど気にも留めなかったが、まさかライバル社で働いてたとはね。
二人の事情など知る由もない他の面々は時事問題を茶化して談笑している。
とにかく、後で確認するとして、今はこの場を無事に切り抜けるしかない。