ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「早かったな」  


「そっちこそ もう家でくつろいでる感じじゃん」  


「はは、俺のほうは現地解散だったからな。
ってか、まぁ、俺が上司の誘いを
断ったんだけどね。
お前からの連絡を待ちたかったし…」  


「へぇ、そうなんだ。
話があるのはお互い様ってことね
じゃ、私から訊くけど、
一昨日の夜、
何でベリーベリーで働いてる事言わなかったの?」  


「いや、別にそりゃ関係ないだろ。
あの晩、俺が社名を言う必要はないじゃないか」  


確かにその通りだ。
バカな質問をしたと思ったが、沙希は怯まず続けた。  


「でも、ライバル会社だって
わかってたくせに
教えてくれたってよかったんじゃない?」  


「別に問題はないと思っただけさ。
まさか接待の席で鉢会うって
あの時点で想像できねぇだろ?」  


「そりゃそうだけど…
ところで、鷲尾ってどんな人なの?」  


「見ての通りさ。
横暴という言葉が一番似合う男。
お前だって、知ってんじゃないの?」  


「知らない。
今日いきなり担当だって言われて…
会うのは初めてだから」  


「お前、大丈夫か?」  


「何が?」  


「これから担当するんだろ?」  


「そうみたいね」  


「そうみたいね…って」  


何やら呆れたような声色で言った後、ハスキーはしばし黙り込んだ。
しばらくして口を開いたが、やはり心配そうな口ぶりに変わりはない。  


「なぁ、明日の夜、時間作れないか?」  


「明日?…何で?」  


「会って話したい事があるからに決まってるだろ」  
くだらない質問をするなとハスキーは呆れた口調で続けた。  
「俺は夜7時には新宿に行けるけど…」  


「明日は…」

少し考えてる体で間をおいた。
平日の夜だ。
特に確認する必要もなかったが、暇だとも思われたくない。

「8時くらいなら空くけど…」  


「じゃ、夜8時にあの喫茶店で。
覚えてるだろ? 着いたら、連絡するよ」  


「わかった。
でも、長くは時間取れないよ」  


この前のこともあるから、どうせオマケな考えもあるに違いない。
一応、釘は刺しておこう。  


「少しだけでもいい。
とにかく明日会おう。
じゃ、明日の8時に、な」  


「うん。わかった」  


電話でよりはいろいろな事を訊けるような気がした。    


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