エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
「奥さま!」


坂井さんにそう呼びかけられたものの、止まることなんてできない。
それにもう、『奥さま』にはなれない。

広い庭を走りに走り、大きな門の横にある通用口を通って道路に出ると、じわじわ涙があふれだしてきた。


「どうして……」


無造作に頬に流れる涙を拭い、大通りのほうへふらふらと歩き出す。


「もう、好きになっちゃったのに……」


今さらこんなことってある? 
峰岸織物の人たちだって、翔さんのことを神様みたいに思っているんだよ? 

自分たちが必死に守ってきたものを『素晴らしい』と評価してくれて、窮地を救ってくれたあなたのことを。


「どうしよう……」


勢いで飛び出してきてしまったが、実家には帰りたくない。

帰れば心配をかけるだろう。
かといって、翔さんのマンションには戻れない。


私は迷いに迷って、奈央に電話をした。


『砂羽、久しぶりだね』
「うん……」
『あれ、涙声?』
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