そのアトリエは溺愛の檻
「何、それは俺の感性を疑ってるってこと?」

「そういうわけではないですけど……」

「俺が撮りたいのはきみだ」


正面から直球で言われると、口説かれているみたいで恥ずかしくなる。


でも、写真を引き取る代わりに別に写真を彼に提供するって本末転倒だし。いくらこれと違って健全な写真とは言っても、やっぱり簡単には引き受けられない。

彼と揉めるわけにはいかないのは重々承知だけど、これは無理だ。なんとか断る方法を考えないと。


「あの……」

「引き受けてくれないと……、そうだな、創作意欲が削がれてスランプに陥ってカレンダーの仕事を断ることになるかもしれない。

それにこの写真は心の支えにするために引き伸ばして額に入れて事務所に飾っておくから、打ち合わせに来た誰かに見られる可能性が高いな。今までモデルの撮影は断ってきたし、もしかしたら話題になってしまうかもね。このモデルは誰だ、アキとの関係は、とか。

傷心の俺は振られてしまったと口を滑らせてしまうかもしれない。そうなると、キミもいろいろ面倒なことになるかもしれないね」


断る方法を考えていると、彼はその様子が想像できるようにゆっくりと私に告げる。

悪夢のような未来に息が止まりそうになる。
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