そのアトリエは溺愛の檻
「それは本当のプロに失礼だから否定するけど、下積みの頃に一通りのことはできるように勉強したから」


そう言いながらサイドに編み込みを施し、緩やかに巻かれた髪をハーフアップにしていく手つきも慣れたものだった。

勉強だけでこんな技術が身につくはずもない。きっとたくさん練習して努力したのだろう。


「写真は好きだったけど、大学まで普通の勉強しかしてこなかったから、卒業後にできることはなんでもしようと思って」


重秋は偏差値の高い大学の出身だった。考えてみるとなかなか不思議な経歴だ。

「芸大とか専門の学校に進もうとは思わなかったんですか?」

「あー、それは家庭の事情でちょっと難しいというか、考えられなくて」

芸術関係の学校は物凄くお金がかかると聞いたことがある。そういえばアキのことを調べた時、家族については何も情報が出てこなかった。もしかしたら複雑な家庭で育ったのだろうか……。


「あ、待って。その聞いてはいけないことを聞いてしまったみたいな顔、違うから。会社を継ぐように教育されてたから大学進学が必須だっただけで。恵まれた環境で育ったほうだと思ってるよ」
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