そのアトリエは溺愛の檻
ウッドチェアに腰掛けると、重秋が私の顎に手を当て、顔が上に向けられる。ゆっくりとリップブラシが唇の上を滑って、そこに自分の全意識が集中する。


キスする直前みたいな、そんな角度に重秋の顔がある。
その表情が真剣で思わず見惚れてしまう。


「百音。そんな顔したら、塗ったリップが落ちることしたくなるんだけど」


顔も口も動かせないから顔を背けることも言葉を発することもできない。それを良いことに重秋は言葉を続ける。


「誘惑は撮影の後でね。はい、完成。行こう、お姫様」


エスコートするように手を取り、彼に連れられてバルコニーを歩いた。
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