そのアトリエは溺愛の檻


六時半より先に着き、お店の中で待っていると賢木くんが一人でやってきた。いつもは私、奥田さん、賢木くんの順番で着くことが多いので珍しい。


「奥田さんまだかな」

「なんか納品トラブルでまだ客先らしい」

「え、大変。今日の納品、結構遠いところだったよね。大丈夫かな。こっちは無理しなくても大丈夫ですって連絡入れとこ」

「本当に大丈夫なの?」


向かいに座りながら賢木くんがじっと私を見た。


「えっ……と、まぁ、ちょっと胸が苦しいかなって感じ? なんか抽象的だけど。でももともと別世界の人だったからさ、そこはわきまえてたし。それより、なんかごめんね、心配かけて。
あ、奥田さんから返事きた。まだ帰れないから先に始めててってさ。今日サシ飲みになりそうで賢木くんの彼女に悪いな」

「それは先週別れたから問題ない」

「えっ」


私が驚いて何も言えなくなると、賢木くんは「生でいい?」と聞いてから生ビール二つとスピードメニューをいくつか注文した。

別れたってそれ、平気そうにしているけど、私よりも賢木くんのほうが大丈夫なのかと尋ねたくなる。
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