そのアトリエは溺愛の檻
だけど賢木くんに関しては、新しい彼女ができた話はよく聞くけど、別れたという話はあまり聞いたことがない。いつのまにか別れていて、すぐに新しい人がいるから、相談なんて必要ないのかもしれないけど。


「そうなんだ……。なんで、って聞いていいのかな?」

「相手の結婚願望が強すぎたから」

「へぇ」


私も賢木くんも28歳で、適齢期といえばそうだ。周りの同級生の結婚の話を聞くことも多くなった。しかし今の発言から察するに彼にはまだ結婚は考えていないらしい。もう少し独身を楽しみたいのかな。


そう思っているとビールとお通しが運ばれ、とりあえず乾杯した。


「俺の話は別にいいんだよ。今日は雨宮の話だ。今週の雨宮はカラ元気すぎて痛々しいし、おまけにその髪。いい加減少し吐き出せ」


確かにあのニュースを見てから、それまで以上にがむしゃらに仕事をしていた。そうじゃないといろいろんなことを考えてしまうから。

プライベートを仕事に持ち込むなんて嫌だから、シュレッダーのゴミの片付けから応接室の拭き掃除にカタログ補充まで目につく仕事を片っ端からこなしていった。

二人が心配そうに見ていたことは気付いていたけど、重秋に会うまでは何も言えないと思って黙っていた。
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