王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「どうしました?」
「いや。そういや、……お前とヴァレリア殿はどうやって知り合ったんだったかなと思って」
「どうしたんです。ボケたんですか? 薬室であなたも一緒に……」
「ギルバート様!」
きょとん、とするギルバートにセオドアが追及する間もなく、後ろからシャーリーン嬢が駆け寄ってきた。
「探しましたわ。一緒にお茶をいただく約束です」
「ああ、シャーリーン。そうだったかな」
「こちらですわ。失礼しますわね、騎士の皆様」
腕を引くシャーリーンに、ギルバートは嬉しそうに着いていく。
まるでエマに向けていたような、恋をする男のまなざしで見つめながら。
セオドアは胸がざわついた。エマが城を追い出され会えなくなったからと言って、ギルバートはそんなに簡単に心を変えるような男ではない。それにいつもと違ったボケっとした態度も彼らしい快活さが失われているようで気になる。
「今の王子殿下ですね。……どうやらシャーリーン様との婚約が数日中に発表になるようですよ」
騎士団の下っ端に言われ、セオドアは驚きとともに顔を上げる。
「本当か?」
「ええ。俺の家はキンバリー伯爵家と遠縁にあたるんですよ。伯爵本人からお伺いしました」
「本人から……では、噂ではないんだな。……殿下がそれを了承したのか?」
王家のことを考えれば正しい選択だ。
しかし、あのギルバートが、そんなに簡単に今まで避けていた令嬢と結婚を決めるだろうか。
セオドアの胸には何かが引っかかっていた。